2020年6月「調査・修理」その1
その1->その2へ->その3へ
気が滅入った4月とは反対に5月には喜びと感動があった。どこかで一度経験した
ような、胸が熱くなったあの感動は何だったのか? パソコンに取り込んだら廃棄す
る予定のVHSと8mmビデオの機械とテープを整理していたら、「タロジロ物語」
というテープを見つけた。第一次南極観測隊で昭和基地に置き去りにされた樺太犬、
タロとジロの奇跡的な生存の物語だ。相手が物言わぬ機械だったから気づかなかった
が、私の感動も、これに近い思いだったのかもしれない。機械は私を裏切らなかった。
信頼には信頼で答えるのが礼儀だと思う。ちゃんと修理して、現役復帰させてやろう
という思いを強くした。
トーンアンプの修理
-------------------------------------------------------------------------------------------------
完成当時の回路図
図1 入力セレクタ及び音量調節部 図2 電源部
入力から音量調節部まではこのままで良い。電源部の回路はこのままとして、使っていない古いアンプから
同じ型番の電源トランスを抜き取り交換できる。
図3 主要部
完成当時(1981年頃)、一段目から三段目まですべて同じ真空管(12AU7)を使っていた。この状態で約10年
の間無故障だった。ただ英国式のトーンコントロール回路が使い勝手が悪いのと、全体としての利得不足を感
じていた。1990頃、ヒーター配線だけいじって、真空管をを6AQ8に差し替えてみた。常用のボリューム位
置も12時付近となり、使いやすくなった。欲を出して三段目のみをより強力な6FQ7に差し替えたらトラブル
が起きた。音がちゃんと出ていたから気づくのが遅れ、電源トランスがダウンした。
一方私自身は1990頃(30代半ば)仕事ではより責任ある立場になっていったので、修理は先送りして、
トーンアンプの電源は入れず、入力セレクタのみを利用し、録音出力とパワーアンプを繋いで聴いていた。
やがてさらに仕事の重さが増し、修理どころか音楽を聴くことさえ無くなっていった。こうしてアンプたちは
完全に放置状態になったわけだ。
修理の方針
1.電源トランス交換
2.三段目のカソードフォロワーは省略。二段目上のカソードから直接出力を得る。
3.英国式のトーンコントロール回路を変更。
上の回路図3の通り、切り替えスイッチにより上昇2、上昇1、平坦、下降1、下降2と、5つのモードを
選択できる。平坦を選択するとボリューム位置に関わらずフラットなF特性が得られる。上昇、下降どちらを
選択しても、ボリュームの右回転で変化量が増える・・・これがけっこう使い辛かった。技術者的な頭で良か
れと思ったことでも、のんびり音楽を聴こうと思っている人にとっては、操作が面倒かつ不自然に感じ、スト
レスになってしまう。実現するのに問題点が無いわけではないが、LUX型回路を採用したい。
4.LUX型回路を採用。下の回路図4の中央上の、ピンクで色付けされているところがそれ。
図4 修理後の回路
これから修理しようというアンプは三代目だ。二代目は友人に譲渡。初代は電源トランスや有用部品を取り
去った後に廃棄の予定。このアンプがLUX型のトーンコントロール回路だった。優れた回路だが実際に組み
立てようとすると問題もあった。図4のピンクの部分にある、1MΩと500KΩ、いずれもBカーブの可変抵
抗が二個必要になる。LUX型は、これらの可変抵抗の中点で、フラットな特性が得られるのだが、センター
クリック付きの可変抵抗は売られていない。残念ながらアルプスのバランス用デテントボリュームは、Bカー
ブではなく、MNカーブだ。しかも1MΩと500KΩという高抵抗のパーツは選択肢が狭い。
のんびり音楽を聴こうと思っているだけの人なら、それは些細なことかも知れないが、F特性を測定しよう
としてもいい加減になってしまう。これはこれでストレスだった。
5.可変抵抗を自作する。
右の写真は、二段二回路、21接点のロータリースイッチだ。
センター位置から左右に10段階づつ動かせる。これを使えば
二段二回路、Bカーブの可変抵抗を自作できる。
50KΩ 1/8w × 20 = 1MΩ
25KΩ 1/8w × 20 = 500KΩ
誤差1%の抵抗を使えば、正確な中点が得られるはずだ。
※.同じ抵抗値20個づつでBカーブを作るのではなく、等比数列的に抵抗値を選び、dB値が等間隔になる
ように作ることも可能だが、今回はBカーブを採用。実際に使用して必要を感じたら改造することにした。
方針は固まったので作業に入る前に必要なパーツの在庫を調べる。抵抗とコンデンサーはよく使う値なので
心配ない。21接点ロータリースイッチもある。
アンプのケースを開けてしばらく見ていると、意外な物が足らなかった。可変抵抗のシャフトがやたら長い
のだ。換装する21接点ロータリースイッチのシャフトの方が15mm以上短い。フロントパネルの操作ツマ
ミと、可変抵抗を繋いでいる真鍮棒の長さが不足する。ワッシャーで調節できる範囲を越えている。電車に乗
って秋葉原まで行くのは嫌だ。自転車で近所のホームセンターへ行き、Φ6mmのアルミ丸棒を購入した。
-------------------------------------------------------------------------------------------------
長い間、電源を入れること無く「故障中」のまま放置されたアンプを蘇生させる
準備は整った。
親ページに戻る その1->その2へ->その3へ